コラム
コラム
平成29年(2017年)6月2日に公布された改正民法が令和2年(2020年)4月1日から施行され,保証制度が見直されます。
保証債務には,「付従性」「随伴性」「補充性」という3つの性質があるとされています。
附従性とは,保証債務が「主債務を担保するために存するという性質」であると説明されています。
保証債務は主債務の従たる債務であり,主債務がないのに保証債務だけが成立することはなく,主債務が消滅すれば,当然に保証債務も消滅するることになります。
随伴性とは,主債務が移転すると,保証債務も一緒に移転するという性質をいいます。
補充性とは,主債務が履行されなくなるときに初めて,補充的に保証人が履行しなければならなくなるという性質です。もっとも,保証契約が利用される場面では,通常は「補充性」がない連帯保証契約が用いられています。
改正民法では,448条2項が新設され,「主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても,保証人の負担は加重されない。」と定められました。
従来の附従性の考え方からすると,保証債務は主債務の従たる債務なので,主債務の変更に応じて保証債務も変更されることになりますが,改正民法は,保証人が引き受けた内容よりも主債務の内容を荷重する変更については,保証人を保護するために保証人に効力が及ばないとしました。
この規定に反する特約や主債務者についての変更が全て保証人に効力が及ぶ旨の特約は,個人保証人については消費者契約法10条により無効と考えられるべきであると指摘されています(平野裕之「新債権法の論点と解釈」181頁(慶應義塾大学出版会2019年1月30日))
根保証には,保証額の上限や保証期間を定める限定根保証と,これらを定めない包括根保証があります。
改正法465条の2第1項により,これまで貸金等債務に限定されていた包括根保証の禁止が,一切の個人根保証に拡大されました。具体的には,賃貸借や継続売買取引などの根保証についても,包括根保証が禁止されることになります。
但し,極度額の定めの義務付けについてはすべての根保証契約に適用されますが,元本確定期日の規律(保証期間の制限)については,現状通り,貸金等債務に限られることになります。
この背景には,例えば,賃貸借契約において,賃貸人としては保証契約の存在を前提に賃貸借契約を締結しているにも関わらず,保証期間が制限されてしまうと,最長でも5年経過後は保証人のないまま賃貸しなければならない不都合が生じてしまうことが理由として挙げられています。
個人が締結する保証契約のうち,事業用融資の第三者個人保証ついて公正証書の作成が必要となりました。
もっとも,取締役,理事などの経営者,主債務者が個人である場合の共同事業者又は主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者などは,必要性から適用除外とされました。
第三者保証の制限の理由には,「個人的な情義等から保証人となった者が、想定外の多額の保証債務の履行を求められ、生活の破綻に追い込まれる事例が後を絶たない(法務省民事局「民法(債権関係)の改正に関する説明資料(2)事業用融資における第三者保証の制限」参照)」という背景があるとされています。
改正民法465条の6第1項では,保証契約「締結の日前 1 箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ,その効力を生じない。」と定められました。
改正民法465条の6~9にかけて,公正証書作成に関する規律が細かく規定されていますが,代理人による作成ができず,必ず保証人本人が出頭しなければならない点も注目されるところです。
改正民法では,主債務者から保証人への情報提供義務も設けられ,事業のために負担する債務に関する保証や根保証を依頼するときには,下記の情報提供をしなければならないことになりました(改正民法465条の10第1項)
そして,主債務者が上記情報提供義務に違反して必要な情報を提供しなかったり,虚偽の情報を提供したことにより,以下の要件に該当したときは,保証人は保証契約を取り消すことができます(改正民法465条の10第2項)
①保証人が「その事項について誤認をし,それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合」
かつ
②主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたとき
また,改正民法458条の2は,「保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,保証人の請求があったときは,債権者は,保証人に対し,遅滞なく,主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。」と定めています。
この規定により,保証人から債権者に対し,主債務の内容や返済状況等について情報提供を求めることができるようになりました。
保証制度の改正に関する新旧規定の適用関係は以下の通りとなります。
適用される法 | |
|
旧法 |
|
新法 |
平成29年(2017年)6月2日に公布された改正民法が令和2年(2020年)4月1日から施行され,法定利率が見直されます。 法定利率の見直し 当面の法定利率の引き下げ 改正民法では年5%の固定の法定利率が廃止されて3・・・
はじめに 平成29年(2017年)6月2日に公布された改正民法が令和2年(2020年)4月1日から施行されます。 改正を受けた条文数が257ヵ条,新設された条文数は85ヵ条にも及びますが,ほとんどは軽微な表現の変更か・・・
民法改正による成年年齢引き下げ 成年年齢を18歳への引き下げる改正民法が平成30年6月13日に成立し,令和4年(2022年)4月1日に施行される見込みです。 現行民法では,年齢20歳が成年とされています(民法4条)が・・・
現行法の寄与分の制度 平成30年(2018年)7月13日に公布された改正民法の相続法部分のうち,相続人以外の者の貢献に関する改正部分が令和1年(2019年)7月1日に施行されます。 現行法下では,寄与がある相続人は,・・・
平成30年(2018年)7月13日に公布された改正民法の相続法部分のうち,相続の効力に関する改正部分が令和1年(2019年)7月1日に施行されます。 「相続させる」旨の遺言でも対抗要件が必要 最高裁判所は,「相続させ・・・
平成30年(2018年)7月13日に公布された改正民法の相続法部分のうち,遺留分制度の改正部分が令和1年(2019年)7月1日に施行されます。 遺留分減殺請求から生ずる権利の金銭債権化 遺留分とは、法定相続人が本来相・・・
平成30年(2018年)7月13日に公布された改正民法の相続法部分のうち,遺産分割制度の改正部分が令和1年(2019年)7月1日に施行されます。 特別受益における持戻し免除の意思表示の推定に関する改正 現行民法では特・・・
平成30年(2018年)7月13日に公布された改正民法の相続法部分のうち,配偶者居住権等に関する規定が令和2年(2020年)4月1日に施行されます。 配偶者居住権の創設 夫または妻が亡くなった場合に,自宅を相続しなく・・・
改正相続法の施行時期 平成30年(2018年)7月13日に公布された改正民法の相続法部分が,以下の通り施行されます。 自筆証書遺言の要件の緩和等・・・平成31年(2019年)1月13日施行 自筆証書遺言の保管制度・・・・・・