コラム
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成年年齢を18歳への引き下げる改正民法が平成30年6月13日に成立し,令和4年(2022年)4月1日に施行される見込みです。
現行民法では,年齢20歳が成年とされています(民法4条)が,改正民法施行後は,18歳が成年になります。
民法は,監護権と養育費をセットで取り扱っており(民法766条),監護権は親権の内容の一つです(民法820条)。そして,親権の対象となるのは,「成年に達しない子」(民法818条1項)となります。
このため,成年年齢引き下げにより,養育費の支払期間が20歳から18歳に引き下げられるのかどうかが問題となります。
明確に「20歳に達する月まで」等と文書で取り決めれている場合は問題になりませんが,「成年に達する月まで」等と取り決められている場合には争いになる可能性があります。
この点については,合意が成立した当時の成年年齢が20歳であることから,養育費を20歳まで支払うとの合意があると解釈するのが自然であると考えられます。
法務省も,「成年年齢の引下げに伴う養育費の取決めへの影響について」において,「平成30年6月13日に民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律が成立したことに伴い,このような取決めがどうなるか心配になるかもしれませんが,取決めがされた時点では成年年齢が20歳であったことからしますと,成年年齢が引き下げられたとしても,従前どおり20歳まで養育費の支払義務を負うことになると考えられます。」との見解を示しています。
とはいえ,扶養義務者が勝手に判断して18歳までで養育費の支払いを止めてしまう事態が生ずることはありえます。最終的に裁判所で解決を図ることができるとしても,解決までに多大な労力を費やすことになるおそれがありますので,明確に何歳まで養育を支払うのか取り決めしておくことが望ましいと考えられます。
成年年齢が18歳に引き下げ済みですので,「成年に達する月まで」と取り決めをすれば,養育費を18歳まで支払うとの合意があると解釈するのが自然です。
このように,改正民法施行後に「成年に達する月まで」との取り決めをした場合,養育費の支払いは18歳までとなります。
インターネット上で,離婚協議書の書式等がアップロードされているのを見かけますが,もし成年年齢引き下げの民法改正に対応していない古い書式であった場合,漫然と「成年に達する月まで」の養育費支払に合意してしまう危険がありますので,そういった書式の利用には注意が必要です。
では,改正民法施行後に当事者間で養育費の支払期間について争いが生じた場合,家庭裁判所の判断はどのようになるのでしょうか。
監護権と養育費の関係について判断したものとして,古いものですが大阪高決昭和57年5月14日家庭裁判月報35巻10号62頁があります。
大学の学費の負担を求めて争われた事案ですが,親権は子が成年に達したときに終了するため,子の監護に関する処分としての養育費は,成年に達するまでに限られると判断しています。
父母が離婚している場合の未成年の子の養育費について、未成年の子を養育している親権者たる母は、自らが申立人となつて親権者でない父を相手方として家事審判法九条一項乙類四号の子の監護に関する処分として養育費の分担を請求しうるものというべきであるが、その子が成年に到達した場合には母の親権が終了するものである以上、右の子の監護に関する処分としての養育費の分担を請求しうるのは、子が成年に達するまでの分に限られるものであることはいうまでもない。
一方,成年に達した後の養育費について言及したものとして,東京高決平成12年12月5日家庭裁判月報53巻5号187頁があります。
大学の学費の負担を求めて争われた事案ですが,4年制大学への進学率が相当高い割合に達している現状を前提とし,卒業までの学費・生活費をどのように調達すべきかについて
①その不足する額,不足するに至った経緯
②受けることができる奨学金(給与金のみならず貸与金を含む。以下に同じ。)の種類,その金額,支給(貸与)の時期方法等
③いわゆるアルバイトによる収入の有無,見込み,その金額等
④奨学団体以外からその学費の貸与を受ける可能性の有無
⑤親の資力
⑥親の当該子の4年制大学進学に関する意向
⑦その他の当該子の学業継続に関連する諸般の事情
を考慮すべきとし,考慮要素について検討されていないとして,原審に破棄差戻ししました。
本件は,4年制の大学に進学し,20歳に達した後も,その大学の学業を続けようとする子が,20歳に達するまではその学費・生活費の一部を出捐していたが20歳に達した段階でその出捐を打ち切った父に対し,その学費・生活費について扶養を求めた事案である。4年制大学への進学率が相当高い割合に達しており,かつ,大学における高等教育を受けたか否かが就職の類型的な差異につながっている現状においては,子が義務教育に続き高等学校,そして引き続いて4年制の大学に進学している場合,20歳に達した後も当該大学の学業を続けるため,その生活時間を優先的に勉学に充てることは必要であり,その結果,その学費・生活費に不足を生ずることがあり得るのはやむを得ないことというべきである。このような不足が現実に生じた場合,当該子が,卒業すべき年齢時まで,その不足する学費・生活費をどのように調達すべきかについては,その不足する額,不足するに至った経緯,受けることができる奨学金(給与金のみならず貸与金を含む。以下に同じ。)の種類,その金額,支給(貸与)の時期,方法等,いわゆるアルバイトによる収入の有無,見込み,その金額等,奨学団体以外からその学費の貸与を受ける可能性の有無,親の資力,親の当該子の4年制大学進学に関する意向その他の当該子の学業継続に関連する諸般の事情を考慮した上で,その調達の方法ひいては親からの扶養の要否を論ずるべきものであって,その子が成人に達し,かつ,健康であることの一事をもって直ちに,その子が要扶養状態にないと断定することは相当でない。
東京高決は,「子が成人に達し,かつ,健康であることの一事をもって直ちに,その子が要扶養状態にないと断定することは相当でない」として,成人に達したことと要扶養状態にあることを区別しています。
中川善之助「扶養義務の二つの原型について」『家族法の諸問題』では,養育を必要とする「未成熟子とは,本来,未成年者と区別された概念」であると述べられており,この区別が学説上一般的な考え方だと思われます。
このように,現在の実務では,前述の大阪高決とは異なり,監護権が及ぶ未成年と要扶養の未成熟子の概念が区別されています。
とはいえ,家事調停条項では,養育費の支払い時期について,「成年に達する月まで」と定められる例がほとんどです。
そして,成年に達した後に養育費を認めた事例をみると,療養生活を続けて母親の世話になっているケースや大学在学中のケースなど,病気療養等のため,現にその者が必要とする学費,生活費,治療費等が必要となる場合が挙げられます。
つまり,現在の裁判実務は,成年に達した者については原則として未成熟子ではない扱いをした上で,例外的に成年に達した後の養育費を認めているように見えます。
前述の東京高決が詳細な考慮要素を挙げているのも,そういった例外的事情を検討しているせいだとも考えられます。
仮に上記判断枠組みがそのまま改正民法施行後に適用されれば,家庭裁判所の実務において,成年である18歳に達した後の扶養については,諸事情を考慮した上で例外的に認めるという運用になることもありえます。
とはいえ,成年年齢引き下げと社会情勢の変化は必ずしも一致しておらず,概念的にも未成年と未成熟子は区別されていますので,原則的に20歳を未成熟子と考えている現在の運用が変化しない可能性の方が高いのではないでしょうか。
成年に達した後の扶養については,法務省「成年年齢の引下げに伴う養育費の取決めへの影響について」において,「養育費は,子が未成熟であって経済的に自立することを期待することができない場合に支払われるものなので,子が成年に達したとしても,経済的に未成熟である場合には,養育費を支払う義務を負うことになります。このため,成年年齢が引き下げられたからといって,養育費の支払期間が当然に「18歳に達するまで」ということになるわけではありません。」との見解が示されているほか,平成30年6月12日に参議院法務委員会で可決された「民法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」において,以下のとおり,「成年年齢と養育費負担終期は連動せず未成熟である限り養育費分担義務がある」との見解が示されています。
法務省の見解や参議院の付帯決議が法的に裁判所を拘束するわけではありませんが,その判断に影響を及ぼすことが予想されます。
改正民法施行後において,家庭裁判所が成年年齢引き下げを社会情勢の変化だと捉え,成年である18歳に達した後の扶養については諸事情を考慮した上で例外的に認めるというような判断枠組みを採用するのか,それとも,社会情勢に変化がないと考えて,原則的に20歳を未成熟子とする現在と同様の運用を行うのか,その判断が注目されます。
五 十八歳、十九歳の若年者の自立を支援する観点から、本法施行までに、以下の事項に留意した必要な措置を講ずること。
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