敷金とは,賃貸借契約において,借主が家賃を滞納したり,借主の故意や過失で損害が生じたときに備えて,貸主が預かるお金のことを言います。
そこで,家賃の不払いや損害等の債務がなければ,退居の際に全額が返還されるのが原則です。
但し,借主は,建物を明け渡す代わりに敷金を返すように,貸主に要求することはできません。
裁判例でも,借主が実際に建物を明渡した後に敷金を請求できるとされています。
なお,敷金の額は,当事者間の契約によって決められるもので,特に基準があるわけではありませんが,毎月の賃料の数か月分とすることが多いようです。
不動産を借りる際に交わす賃貸借契約書に,「賃借人の故意過失を問わず,発生した損害の修繕費用を賃借人に賠償させる」旨の特約条項が記載される場合があります。
しかし,契約書にこのような特約条項があった場合でも,修繕費用全額を敷金から差し引かれるとは限りません。
通常の使用に伴う損耗や汚損,時間経過によって生じる自然的な劣化や損耗等に関しては,特約があっても原則として敷金から差し引くことはできないとされています。
但し,借主側の故意や不注意による汚損や,通常の使用を超えるような使用による汚損は,その修繕費用を敷金から控除できます。
そのため,差し入れた敷金が故意等の理由で全額修補に充当された場合には,敷金の返還を請求できないことになります。
敷金から差し引かれる未払い家賃や故意・過失による汚損等もないのに貸主が敷金を返してくれない場合,貸主に対し,敷金返還請求を行うことが考えられます。
敷金返還請求を行う際には,①賃貸借契約の状況を確認すること,②明渡し確認時の状況を確認すること,③不動産の使用方法に問題がなかったかを確認すること,④貸主側の請求の内容を検討することなどが必要です。
これらの事項を検討した上で,まずは賃貸人に対して内容証明郵便で敷金の返還を請求してみましょう。
請求に応じてくれない場合には,敷金返還請求訴訟を提起する必要がある場合もあります。
明渡しの翌日から5年間は敷金返還請求権を行使できますが,それ以降は時効で消滅してしまいますので注意が必要です(2020年4月1日改正民法施行前は商法522条の商事時効により時効期間5年,改正民法施行後は,改正民法166条1項1号により時効期間5年となります)。