昨今の不動産価格の上昇や都市化により、老朽化したアパートの立て直しなどのために、貸主が借主に立退きを求めるケースは少なくありません。
貸主に比べて一般的に弱い立場に置かれる借主を保護するために、借地借家法という法律に、様々な定めが置かれています。
貸主が借主に立ち退きを請求する場合には、前提として、アパートを貸すという賃貸借契約を解除する必要があります。
しかし、借地借家法では、貸主は正当事由がないかぎり、貸貸借契約を解除して、借主に立ち退きを請求することはできないと規定されています(借地借家法28条)。
この正当事由は、①貸主および借主が建物の使用を必要とする事情、②賃貸借に関する従前の経緯、③建物の利用状況および建物の現況、④賃貸人から賃借人への財産上の給付(立退料に該当します)の申出を考慮して判断されます。
実務上は、改築や売却等の貸主側の事情で正当事由が認められることはほとんどありません。たとえ立退料が支払われたとしても正当事由が認められない場合もあります。
法的に立ち退かなくても良いとしても、貸主から立ち退きを迫られたマンションに住み続けるよりは、立退料を受け取って転居したいという人がいることも考えられます。
この場合、立退料は、借家権の価格、移転費用、店舗などを営んでいる場合は営業補償費用、慰謝料、クーラーなどを取り付けた場合は造作買取価格等、住んでいる間に借主が支払ってきた費用等を考慮して算定されます。
賃貸借契約を締結する際に、立退料の支払義務を排除する特約をつけたがる貸主もいるかもしれませんが、立ち退き料などの「財産上の給付」は、排除する特約を契約で定めたとしても無効になるとされています(借地借家法30条)。