• 072-669-9380受付時間 平日9:00~18:00
  • まずはお問い合わせ下さい
  • お問い合わせ

コラム

クラブのママとの性交渉があっても、枕営業だから不倫慰謝料請求は認められないと判断された事例

東京地判平成26年4月14日判例タイムズ1411号312頁

争点

 クラブのママに対する不倫慰謝料請求が認められるかが争点となりました。

判決文抜粋


 2 第三者が一方配偶者と肉体関係を持つことが他方配偶者に対する不法行為を構成するのは,原告も主張するとおり,当該不貞行為が他方配偶者に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為に該当することによるものであり,ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には,当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから,たとえそれが長年にわたり頻回に行われ,そのことを知った妻が不快感や嫌悪感を抱いて精神的苦痛を受けたとしても,当該妻に対する関係で,不法行為を構成するものではないと解される(原告は,当該売春行為が不法行為に該当しないのは,正当業務行為として,違法性を阻却することによる旨を主張するが,違法性阻却を問題とするまでもないというべきである。)
 ところで,クラブのママやホステスが,自分を目当てとして定期的にクラブに通ってくれる優良顧客や,クラブが義務付けている同伴出勤に付き合ってくれる顧客を確保するために,様々な営業活動を行っており,その中には,顧客の明示的又は黙示的な要求に応じるなどして,当該顧客と性交渉をする「枕営業」と呼ばれる営業活動を行う者も少なからずいることは公知の事実である。
 このような「枕営業」の場合には,ソープランドに勤務する女性の場合のように,性行為への直接的な対価が支払われるものでないことや,ソープランドに勤務する女性が顧客の選り好みをすることができないのに対して,クラブのママやホステスが「枕営業」をする顧客を自分の意思で選択することができることは原告主張のとおりである。しかしながら,前者については,「枕営業」の相手方となった顧客がクラブに通って,クラブに代金を支払う中から間接的に「枕営業」の対価が支払われているものであって,ソープランドに勤務する女性との違いは,対価が直接的なものであるか,間接的なものであるかの差に過ぎない。また,後者については,ソープランドとは異なる形態での売春においては,例えば,出会い系サイトを用いた売春や,いわゆるデートクラブなどのように,売春婦が性交渉に応ずる顧客を選択することができる形態のものもあるから,この点も,「枕営業」を売春と別異に扱う理由とはなり得ない。
 そうすると,クラブのママないしホステスが,顧客と性交渉を反復・継続したとしても,それが「枕営業」であると認められる場合には,売春婦の場合と同様に,顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから,そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても,当該妻に対する関係で,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。


解説

 本判決は,ソープランドの風俗嬢などの売春については,女性が単に顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないとの考え方を示した上で,性交渉の相手方が被告かどうかは当事者間で争いがあるが,仮に被告であっても,いわゆる「枕営業」であり,売春婦の場合と同様に顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎないから不法行為は成立しないとして,原告の請求を退けました。

 本判決は,原告である妻が離婚せずにクラブのママだけを訴えているというところに事案の特殊性があり(夫婦で協力してクラブで使った金を取り戻そうとしていると被告は主張して争っていました),それが,婚姻共同生活の平和を害するものではなかったとの結論に結びついた可能性はありそうです。

 とはいえ,最高裁の判例(最二小判昭和54年3月30日民集33巻2号303頁)は,「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。」と判示して肉体関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず,故意又は過失によって肉体関係を持った第三者に対する慰謝料請求を認め,裁判実務一般でも,既婚者とわかって性交渉すれば不倫慰謝料が認められてきました。

 本判決は控訴されずに確定したため,高裁以降の上級審の判断がでないままに終結しましたが,これまでの判例の理解や裁判実務とは大きく異なる判断ですので,仮に控訴されていれば,東京高裁で結論が覆った可能性もあったように思います。

 その後の影響についてですが,東京地判平成30年1月31日(平成28年(ワ)第43410号)が,「いわゆる「枕営業」と称されるものであったとしても,被告が亡◯と不貞関係に及んだことを否定することができるものではないし,仮に,そのような動機から出た行為であったとしても,当該不貞行為が,亡◯の配偶者である原告に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為に該当する以上,不法行為が成立する」と判示しているところを見ると,裁判で枕営業だから不法行為は成立しないとの判断がされる可能性は高くないように思います。

同じカテゴリーの事例

法律相談予約受付中
  • 072-669-9380
  • お問い合わせ