コラム
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平成30年(2018年)7月13日に公布された改正民法の相続法部分のうち,遺産分割制度の改正部分が令和1年(2019年)7月1日に施行されます。
現行民法では特別受益は持戻しがあるのが原則で,被相続人の持戻し免除の意思表示があった場合に例外として持戻しが免除されると定めていました。
これに対して改正法では,婚姻期間が20年以上で,配偶者に対して自宅の遺贈や贈与がされた場合には,持戻し免除の意思表示があったものと推定する扱いとしました。
改正法では,婚姻期間20年以上を境に,原則と例外の取扱いが逆転しています。
これにより,持戻しを免除しない旨の被相続人の意思表示の存在がない限り,遺産の先渡しを受けたものとして遺産分割の対象とする必要がなくなりました。
平成28年の最高裁判所の決定(最決平成28年12月19日民集70巻8号2121頁)は,「 共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」と判示し,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるとしていた従来の判例を変更しました。
上記最高裁決定が出るまでは,預貯金は当事者全員の合意がある場合にのみ遺産分割の対象になるとされており,金融機関の取り扱いも,共同相続人の一部が法定相続分に応じた払戻しを請求してきた場合には応じるケースも見られました。
しかし,預貯金が遺産分割の対象となるとの判例変更により,金融機関は,相続人全員の合意や遺言がない限り,各相続人に対する払い戻しに応じないという取り扱いをするようになりました。
このような経緯を受け,預貯金の仮払い制度を創設する改正が行われました。
具体的には,以下の2つの方法が設けられています。
預貯金債権に限り,家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件が緩和され,仮払いの必要性があると認められる場合には,他の共同相続人の利益を害しない限り,家庭裁判所の判断で仮払いが認められるようになりました。
家庭裁判所に遺産分割の審判や調停を申し立てた上で預貯金の仮払いの申立てをする必要があり,手続きが煩雑なのが難点です。以下の②の金額の上限を超える払い戻しを必要とする場合に利用すべき方法といえます。
金額の上限はありますが,預貯金の一定割合については,金融機関の窓口で支払を受けられるようになりました。
家庭裁判所における申立と異なり,「仮払いの必要性」の疎明も要求されず,簡便で利用しやすい手続きであるといえます。
他方,仮払いの金額には上限があります。具体的には,「相続開始時の預貯金債権の額(預貯金残高)× 1/3 × 払い戻しを行う相続人の法定相続分」が上限となり,更に各金融機関からの仮払いは法務省令で定められた150万円までが上限となります。
現行民法の制度では,相続開始後から遺産分割の前までに遺産が一部共同相続人によって処分された場合,処分された財産が遺産分割の対象とならなず,処分で得た利益も処分した相続人の具体的相続分から差し引かれないという不公平な取り扱いの問題がありました。
その結果,他の共同相続人は,家庭裁判所の遺産分割手続きとは別に不当利得返還請求ないし不法行為に基づく損害賠償請求の民事訴訟を起こして,勝手に遺産を処分した共同相続人から回収を図らなければならないという負担が生じていました。
相続法の改正により,遺産が一部の共同相続人によって処分された場合,処分した共同相続人を除く他の共同相続人全員の同意があれば,処分された遺産も遺産分割の対象として取り扱い,遺産の処分で得た利益を処分した共同相続人の具体的相続分から差し引くことができるようになりました。
これによって,不当な遺産の処分がなかった場合と同じ結果を実現できるようになり,他の共同相続人が別に民事訴訟を提起しなければならないという負担がなくなりました。
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