原則として、人は生まれた時から権利が発生するとされています。しかし、胎児に関しては例外的に、生まれる前から相続する権利が認められます。
つまり、夫が死亡したときに妻が妊娠していて、お腹の中に胎児がいたというような場合は、胎児にも相続権があります。法律上、胎児はすでに生まれたものとみなされるのです。
しかし、胎児は死産の可能性もありますし、遺産分割協議に現実には参加できないので、遺産分割をする場合は、胎児が生まれてから遺産分割協議をするのが良いでしょう。胎児の母親も相続人の場合は、胎児が生まれた後も、その子の代理人になることはできません。この場合は、特別代理人を選任することになります。
原則として、未成年については、親が親権者として、未成年者の法定代理として法律行為や財産管理を行うことになっています。しかし、代理人である親とその子供の利益が対立する行為(利益相反)については、公平を保つため、親は子を代理することができません。
そこで、このような場合には、親とは別の代理人(特別代理人:相続人と利害関係のない親族や弁護士など)を家庭裁判所に選任してもらい、その特別代理人が未成年者の代わりに遺産分割協議を行います。
具体的には、遺産分割を行う場合に、親と子が共同相続人である場合や、複数の未成年者がいて親が共通である場合などがこれにあたります。
夫が亡くなり、相続人が妻と未成年の子2人の場合、2人の未成年の子それぞれ特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立て、妻と2人の特別代理人の3人で夫の遺産分割の手続きを行います。妻が相続人ではなく、2人の未成年の子だけが相続人の場合も、妻は利害の反する2人の子の両方の代理はできないので、一方の子については、特別代理人の選任が必要となります。
遺産分割は、法律行為です。そのため、遺産分割を有効に行うためには、遺産分割の当事者である相続人全員が、有効に法律行為を行える意思能力と行為能力を有していることが必要です。
ですから、意思能力がない痴呆症の方が遺産分割協議をしても無効になるのが原則ですが、認知症の程度は人によって異なるため、個別の状態に応じて検討する必要があります。
重い痴呆症で意思能力がない場合は、遺産分割協議に参加しても分割協議が無効とされる可能性があります。後になって遺産分割の結果が変わらないようにするためには、遺産分割協議前に、家庭裁判所に後見開始の審判の申し立てをし、後見開始の審判と成年後見人を選任してもらい、そのうえで成年後見人が参加して遺産分割協議を行うことになります。
それほど重い痴呆ではなく、意思能力が不十分といえる程度の場合は、補佐開始の審判の申し立てをし、家庭裁判所で補佐開始の審判と補佐人を選任してもらいます。